ジェイエル・コリンズさんが書かれた「父が娘に伝える自由に生きるための30の投資の教え」はアメリカに特化したものを除けば、投資の実態を理解し、理想的な資産の増やし方を習得できる一冊です。アメリカ特有のものは、できるだけ日本で生活する私たちの生活に落とし込んで紹介したいと思います。
Part1 オリエンテーション
「稼ぐ範囲で使い、余りは投資し、借入金は避ける」これは「会社に縛られないお金」を作るための公式です。「お金で買えるもので最も価値のあるのは自由、借金をしてまで買う価値のあるものはない」とし、お金を使うとお金がなくなるだけでなく、そのお金が生み出すはずだったものが失われることも理解しなければいけないとしています。
現金100万円で車を買った時、その車の費用は100万円よりもはるかに大きくなります。なぜなら、もしそのお金を3%の利回りで運用できれば、3万円の利息が得られ、103万円を失ったことになるからです。
これは1年目だけの話で、この機会損失は毎年上乗せされていきます。毎年得られる3万は、それがまた利息を生む原資となり、利息が利息を生む「複利の魔術」として雪だるま効果で大きくなっていきます。
つまり、今の車の費用は100万円かもしれませんが、数年後には200万になると考えなければいけません。それでも今の自分にとって価値のあるものであれば、稼ぐ範囲でお金を使いましょう。
Part2 資産形成の最強ツールをどうコントロールするか
「シンプルであることが、本当のエレガンスの基本」(ココ・シャネル) 冒頭に書かれたこの言葉の通り、あくまでもシンプルな3つの道具を使い資産形成をします。
①株式 VTI(バンガード・トータル・スットク・マーケット・インデックスファンド)
米国株式市場の投資可能銘柄のほぼ100%を投資対象としています。株式は長期間にわたって最も利回りが高く、インフレヘッジにもなり、資産を増やしてくれます。
②債券 BND(バンガード・トータル・ボンド・マーケット・インデックスファンド)
米国の投資適格債券市場全体を投資対象としています。債権は、株式の激しい変動をならすための収入をもたらし、デフレヘッジになります。
③現金
現金は定期的に発生する費用をまかない、緊急時にも役に立ち、デフレ時では強みを発揮します。
この3つの道具の資産配分は、好みに従って構成を調整してほしいとしていますが、目安として、株式には約75%、債券には約20%、現金は約5%とし、毎年1度くらいは資産配分を、望ましい形になるように再配分(リバランス)することを勧めています。
また調整の時期についても、1年の初めと終わりは避けることとしています。みんながバランス調整を考えるタイミングで、税金の観点から売買する人が多く、短期的に市場が荒れることから回避した方がよいとのことです。ちなみに著者は、妻の誕生日に調整するようです。理由は、市場の状況に無関係で、覚えやすいからです。
著者は国際的なファンド(アメリカも含めた全世界株式市場に投資するファンド)に投資しない理由に、アメリカの企業の多くが、国際的に事業を展開し、多くの利益を海外で上げているので、世界中の市場の成長をしっかりと取り込んでいることと、世界の経済は相互に強く関連づけられているので、アメリカ市場が下がった時は、世界市場も同時に下がりやすく、リスク分散のメリットが少ないということをあげています。地政的な理由からくる例外はありますが、国際的な市場間の連関は強まっています。
それでも国際的なファンドを保有したい人のためには、VT(トータル・ワールド・ストック・インデックスファンド)を勧めています。
Part3 なぜ、ほかの投資はよくないのか
インデックス投資の基本は「市場の利回りを上回る株式銘柄を選び出すのは、プロでも極めて困難なので、インデックスを構築するすべての株式を買うことでよい結果を得よう」という考え方です。
伝説の投資家と言われ、株式銘柄選別に最も優れているあのウォーレン・バフェットでさえ、自分が亡くなったら、妻の信託財産の90%は低コストのS&P500インデックスファンド(アメリカの大企業500社に投資するファンド)に投資するように勧めています。
そしてこのPartで特筆すべきことは、著者はドルコスト平均法を好まないということです。ドルコスト平均法は、毎月一定の額を、長期間にわたって、資金を少しずつ市場に流し込むものです。市場が下落すれば多くの株が買え、上がれば少なくてすみ、高値掴みを避けることができます。さらに、一括投資直後に大暴落が起きる等の、一度に投資することで生じるリスクを回避するものです。
著者の投資対象となる株式市場はアメリカです。アメリカの株式市場は基本的には、大きな変動を伴いながらも上昇傾向にあります。上昇している期間の方が、下落している期間よりも長く、1970〜2013までを見ると、43年のうち33年間は市場は上昇しています。全期間の77%となります。
つまりドルコスト平均法を採用するということは、市場が下落し、痛みを軽減してくれる方に賭けているようなものです。そのとおりになる確率は23%以下、そして77%強の確率で、得られる利益が減少します。
多くの人は、毎月の収入の中から、できる範囲の金額を投資に回していると思います。ある意味、毎月の投資は、やむをえずドルコスト平均法で投資いているようなものです。もちろん利点でもある「株価の平準化」する役割を果たしてくれています。
今後まとまった資金が手に入れば、直ちに投資に回して、最大限の運用を実現する選択肢も考えてもいいのかもしれません。
Part4 たどり着いたあと、何をするか
資産を増やしていき、今度は資産がなくならないようにしながら、どれだけお金を引き出すのかを考えるPartです。結論から言うと毎年運用している資産全体の引き出し率は3%以下にすることです。つまり、仮に1000万円運用していれば年間30万程度ということです。
まず「4%ルール」(トリニティ・スタディ)とは、トリニティ大学の教授たちの研究によると「株式と債券を半分ずつ保有するポートフォリオ(株式50%と債券50%)で引き出し率4%、ただしインフレ率に応じて調整する」というものがあり、このモデルでは96%の確率で30年後のポートフォリオが減少しないというものです。
この「4%ルール」を著者はさらに確実にするために、3%に引き下げました。またその時のポートフォリオは株式75%、債券25%に投資するといいとしています。
このPartの最後に著者は、純粋に喜びを味わえたお金の使い方は「寄付」をすることだとし、寄付したお金は最高の満足感を与えてくれたとのことです。
終わりに
資産を築ける人生に変えようと思うなら、これを10年計画として考えてみることです。資産を積み上げるステージでは、市場の下落は歓迎すべきです。ただし、市場が下落する時期をうまくつかめると思い込まないように注意しましょう。
「会社に縛られないお金」を蓄えて、経済的自立というレベルに到達したら、個人としての選択肢は格段に広がります。選択肢が増え、何をしてもいい自由(やらない自由も含めて)こそ、お金でかえる最も価値のあるものです。著者がこの本で伝えたかったのはそれを実現するための戦略です。
30の教えの最後には、リスクについて書かれています。この本で論じてきた投資手法は、株式市場が基本的に上昇することを前提としています。株式はとてもリスクが高いと考えられ、短期的には価値が大きく変動します。しかし、5年や10年の期間で考えれば、多くの利益を得られる可能性は高いと考えられます。
投資で成功したいなら、長期間にわたる大局的な見方が必要であり、20年で考えるなら、株式を持っていれば、間違いなく豊かになれるとしています。そして現金については、インフレになると、日々価値が下がり、10年、20年という期間にわたって現金を持ち続けていれば、購買力が次第に低下するリスクを負わなくてはならないとしています。
投資をするリスクはもちろん、投資をしないリスク(現金を持ち続けるリスク)も踏まえ、自分自身のニーズや目標に合った選択をしたいと考えさせてくれました。「父が娘に伝える自由に生きるための30の投資の教え」を読んだことで、理解した知識は武器になり、やがて難局に直面しても、資産を積み上げていける力になると思います。
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