投資の世界では「金利」こそが「炭鉱のカナリア」「金利を見れば投資はうまくいく」

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 カナリアという鳥は、周囲の異変に敏感で、普段常にさえずっているのに、危険を感じると鳴き止むという習性を持っています。昔、炭鉱労働者は坑道に入る際にカナリアを持って入り、鳴き止めば、炭鉱内にガスの発生等、変調が起きていると察知していたようです。「金利」は金融市場における「炭鉱のカナリア」であり、私たちに多くのことを教えてくれます。

 2024年、日本はマイナス金利解除、米国では政策金利が高止まり、利下げ局面に入ろうとしています。世界中で金利が大きく動く年だからこそ、今こそ金利を知り、景気を予測して投資に生かしていきましょう。

重要な3つの金利

政策金利(短期金利)

 短期金利は、一般的には期間が1年未満の金融資産の金利を言い、政策金利は、短期金利の1つです。「政策金利」とは中央銀行(日本では日銀、アメリカではFRB)が金融政策によって市場金利を誘導する目標となる基準金利で、簡単に言うと、中央銀行が一般の銀行に融資を行う際に受け取る金利のことです。

 金融政策とは、中央銀行が、景気を安定的に拡大させるため、政策金利を変更し、市中に出回るお金の量を調整することです。景気が良いときには、政策金利を上げて(利上げ、金融引き締め)通貨供給量を減らし、悪いときには、政策金利を下げて(利下げ、金融緩和)通貨供給量を増やします。

 長い間、デフレに悩まされていた日本では、政策金利を下げる金融緩和をとっていました。2024年、3月時点のアメリカは、コロナ後の経済再開(リオープン)により景気は急回復、インフレとなり、景気を冷やすために政策金利を上げています。

10年国債利回り(長期金利)

 短期金利が、期間を1年未満とするのに対し、長期金利とは、一般的には期間が1年以上の金融資産の金利をいい、10年国債利回りは、長期金利の指標の1つです。「長期金利」とは「10年国債利回り」のことだと覚えておいてもいいでしょう。

 債券は、国や企業が、期間や利率を決めて、一般投資家から資金調達をするために発行するもので、10年国債とは、国が期間10年で資金調達をするために支払う利率を決めて発行する債券です。

 政策金利は住宅ローンの変動金利(期間の短い住宅ローン)の基準となります。また期間の長い住宅ローンや預金の利率などは、ほぼ同じ期間の国債利回りが1つの基準となります。

社債利回り

 社債は国債同様、債券の1つです。国債は国が発行する債券であるのに対して、社債とは、企業が発行する債券です。社債利回りとは、債券市場におけるその社債の流通利回りのことで、企業が今日資金調達をする場合のコストです。企業ごとに社債は存在し、それぞれ流通利回りは異なります。

 社債利回りは、発行体となる企業の信用力の差です。信用力とは、満期が来たら借りたお金を返済できるか、定期的に利息を支払えるか、という返済能力のことです。信用力が高い企業の社債利回りは低く、信用力が低い企業の社債利回り高くなります。

景気サイクルと金利の関係

 景気には良い時もあれば、悪い時もあり、季節のようなサイクルがあります。肌感覚でもいいのですが、現在の景気を知る為には、米国の景気転換の先行指標として注目されるISM製造業景況指数を見ます。製造業の景況感を示す指標の1つで、米国景気の良し悪しを表し、指数50を基準として、50を上回ると景気拡大、50を下回ると景気後退を意味します。米国の景気後退局面では当然50を下回って推移します


 景気のサイクルには10年信用サイクル)・5年金融政策サイクル)・2年半在庫サイクル)のサイクルがあります。そして景気サイクルは米国から始まります。現在、米国が最大の消費国であり、輸出よりも輸入が多い貿易赤字国でもあるので、米国の景気が良くなればなるほど輸入は増え、輸出国の景気が良くなります。逆に米国の景気が悪くなり輸入が減ると、その余波を受けて輸出国の景気は悪くなります。さらには米ドルが世界の基軸通貨で、世界の先頭に米国がいます。

金利から景気後退局面を予測する

 ここでは、3つの金利のうち、「短期金利(政策金利)」と「長期金利(10年国債利回り)」を組み合わせて米国の景気を考えていきます。そして景気後退局面を予想したいなら、長短金利差の動向を追うのが有効な手段です。

 長短金利差とは、文字通り2つの金利の差で、「長期金利ー短期金利=長短金利差」で求められます。通常、長期金利は短期金利よりも高く、ほとんどの期間はプラスで推移します。

 しかし、金融政策の引き締め局面など、中央銀行が短期金利(政策金利)を上げることで、短期金利が長期金利を上回る状態(逆イールド)となります。逆イールドは一般的に過度な金融不安や、過激な政策変動により短期金利が急騰したことで生じるために、その発生後は景気後退が訪れるケースや、株価調整局面に転じるシグナルとされています。つまり長短金利差がマイナスとなったら注意が必要です。

長短金利は景気の道しるべ
引用元:日経新聞

 上のグラフを見てわかるのは、長短金利差がボトム(最下値)を付けると、その後景気後退局面が訪れます。グラフには無いのですが、景気後退局面が訪れると、ISM製造業景況指数がボトムを付けます。

 著者は特に長短金利差1%割れは注意0%割れは警告としています。

 ①長短金利差の1%割れは、ISM製造業景況指数の50割れを懸念すべき。

 ②長短金利差の0%割れは、景気後退局面入りの可能性大、1年後に要注意。

約10年に一度、景気は地に落ちる

 まず信用サイクル(10年)は、銀行の融資姿勢のサイクルです。約10年に1度の景気後退局面では、銀行の融資姿勢が消極化した結果、企業は資金調達しにくくなり、デフォルト率(倒産)が高まります。

 リスクオフ局面から突然始まる銀行の融資姿勢の消極化は、企業を慌てふためかせ、実態以上に景気が落ち込みます。信用サイクル(10年)の悪い時期に、金融政策サイクル(5年)と在庫サイクル(2年半)の悪い時期が重なると、3つのサイクルが合体して負の威力が増強、世界を巻き込む危機が起こります。

 つまり、約10年に1度、先ほどのグラフのシャドー部分で示した「S&L危機」「ITバブル崩壊」「世界金融危機」「コロナショック」のような深い景気後退局面が訪れるので、3つのサイクルの合致時期には要注意です

まとめ

[改訂版 金利を見れば投資はうまくいく」には他にも、米国からユーロ、日本に至るまで、各国が行っている金融政策についても書かれています。特に黒田日銀総裁が行ってきた金融緩和からのマイナス金利解除、その後の利上げできない実情についても述べられており、まさに今、知るべき内容が書かれています。最後の章には30年以上ファンドマネージャーとしての実績がある著者が、投資で成功するための心得も述べておられます。

 書いてある内容は難しいものも大変多く、全てを理解するのは難しいと思いますが、新NISAなどで、毎月自動でつみたて投資をするだけでは物足りないと感じている方や、日本や米国の個別株投資など、新しい投資にチャレンジする方には、各国の金融事情もわかるのでとてもオススメの一冊です。

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