「貧困は遺伝する」金融リテラシーを学ぶ最良の教科書 ビジネスエリートになるための「教養としての投資」

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 日本のウォーレン・バフェットと言われる、著者である奥野一成さん(農林中金バリューインベストメンツ最高投資責任者CIO)は少しづつ、確実に貧しくなる日本で生き残るためには「投資家の思想」が必要だと言います。ますます厳しくなる令和の時代、資本主義社会で生き残るために「投資家の思想」を学び、投資家の目線を持って、より広く、深く、本質を捉えるクセを身につけましょう。

労働者と資本家

 著者は炎上覚悟で「貧困は遺伝する」と言われています。なぜなら貧困な親は相当の確率で、労働者としてのマインドセットしか持ち合わせていないからです。資本主義の世界では労働より資本を優遇します。

 労働者としてのマインドセットとは、組織の一員として、上からの指示にさえ従ってさえいればよく、常に受動的で、いつまで経っても使われる側です。自分の時間と才能という自己資産を、他の誰かから搾取されます。また自分が属している狭いコミュニティの中での人間関係しか構築できないのも特徴で、外の世界に目が向きにくく、投資に対する考え方も消極的です。

 逆に、搾取する側が「資本家」です。資本家は他人の才能と時間を使う立場にあります。勤勉で従順な労働者であることが、美徳だと考える労働者マインドの親が子供に、資本家のマインドを教えることはなく、辛辣ではあるのですが貧困は遺伝するのです。

 そして裕福な家庭では、親が子供に対して積極的に資本家としてのマインドセットを教えようとします。お金持ちの家がお金持ちであり続けられるのは、もちろん相続によるものもあるのですが、やはり、親から子へ、子からまたその子へと引き継がれていく、資本家としてのマインドセットがあるからで、貧富の差が固定化しやすい背景だと著者は言います。

投資をすればマインドが変わる

 著者は「投資」をすることで資本家マインドになる事が可能だと言います。また投資をすることで、ニデック(日本電産)の永守重信さん、ソフトバンクグループの孫正義さんなど、日本を代表する著名経営者が、米国株に投資するならアマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏に、自分のために働いてもらうことができるのです。

 もちろん株式を買っただけでは、働くマインドは変わりません。長期投資の世界で伝説になっている大投資家のウォーレン・バフェットや、その師であるベンジャミン・グレアムは「株価(チャート)は長期で見れば秤(はかり)のようなものだ」と言っています。

 チャートとは日々の株価の値動きを示したグラフのようなもので、30年間くらいの長期で見ると、会社の趨勢がわかると言います。いまだにバブル(1989年頃)の株価を抜けていない企業は、あまり成長していないとも言えます。長期的に株価が低迷していれば、経営者の経営判断が悪いのか、そもそも産業構造がダメなのか、それとも競争環境が悪化しているのか、自分なりに分析して考えることが大事であると著者は言います。

 株価を知るだけで、知見はどんどん広がります。実際に投資をしていれば、自分のお金と連動する株価を一生懸命見るでしょう。企業を調べるうちに、その企業の業界や、取り巻く環境、多くの経済指標やニュースにも関心が出てくるでしょう。これこそが労働者マインドから、資本家マインドになる第一歩になるようです。

構造的に強靭な企業に投資する

 著者は短期で売買する投機ではなく、長期で保有する投資を推奨しています。つまり「売らなくていい会社しか買わない」という強い思いで、投資する企業を探しています。

 売らなくていい企業=構造的に強靭な企業とし、3つの要素を紹介しています。

 「高い付加価値」「高い参入障壁」「長期潮流」この3つの要素を持っている会社は、極めて強靭であり、この要素が弱まらない限り、その株式を保有し続けられると言います。

 高い付加価値とは、「本当に世の中にとって必要か?」ということです。例として、ウォルト・ディズニーを上げています。ディズニーランドはもちろん、「トイ・ストーリー」のPIXER、「アベンジャーズ」のマーベル、スターウォーズもディズニーが保有するコンテンツです。もはや娯楽の域を超え、恋人や子供など、大切な人に喜んでもらいたいという消費者の課題を解決してくれます。

 高い参入障壁とは、「今更その人たちの向こうを張って勝負しようだなんて、誰も思わないほど圧倒的に強いか?」ということです。ここでの代表企業の例はコカ・コーラです。海外ではコーラとペプシが炭酸飲料市場のほとんどを寡占しています。新規参入しようとしたら、生産設備と販売網構築、ブランド構築のための広告宣伝費等が莫大にかかるということです。完璧なまでに参入障壁を築き上げたコカ・コーラの牙城を崩すのは不可能に近いのです。

 バフェットがコカ・コーラに目をつけたのは、この会社のビジネスが確実に大きく伸び続けると思ったからです。その根拠は世界的な人口増加です。人口は爆発的に伸びると同時に、新興国の経済発展にともなって、中産階級の人口が大きく増えていきます。コカ・コーラのような清涼飲料水は、中産階級人口が増えることで需要が高まります。世界人口は2100年までに110億人になる見通しで、まだまだ増えますから、コカ・コーラの利益はこらからも長期的に増えていくという蓋然性を持つことができます。これこそが長期潮流です。

 ちなみにウォーレン・バフェットは、コカ・コーラの株式を1988年から30年以上、今でも長期で保有しています。その間に株価も20倍、配当金も合わせると利益は桁違いです。

 

 

 投資事例として信越科学工業を取り上げています。信越化学工業はシリコンウエハーで世界シェアの33%を握っています。シリコンウエハーは薄くスライスされた円盤状のもので、これを小さく切ったものが半導体の基盤の素材です。

 競合の会社としては、SUMCO(サムコ)、韓国LGシルトロンもシェアを持っています。したがって製品そのものが参入障壁というわけではなく、最大の参入障壁は33%の世界シェアです。単純な素材なだけに、規模の経済が効いてきます。たくさん作れば作るほど単価を下げられるので、最も高いシェアを持っている会社が儲かる仕組みなのです。

競争優位生産性が物を言うシリコンウエハー市場で約3割の世界トップシェア
付加価値シリコンウエハーは世界の多様な機器の生命線(スマホ、産業機器、電気自動車)
長期潮流半導体の裾野市場の広がり(IoT、自動車)

 

【補講】資産形成で失敗しないために

 著者は、個人が資産形成をするのであれば、まず長期投資が出来る仕組みを作ることを勧めています。そのためには、資産形成に回すお金を隔離することです。毎月2万円を資産形成に回すと決めたら、自分で引き出すのではなく、自動的に銀行口座から引き落とされ、そのまま投資に回る仕組みを作るのが肝心だと言います。

 その意味でも、iDeCoのような確定拠出年金は利用価値が高いと考えられます。毎月の給料から積立資金は自動引き落としですし、中途解約のハードルは高く、強制的に長期で資産形成ができます。しかも確定拠出年金は税制面でメリットがあります。新NISAばかり注目されますが、これから大改正を控えるiDeCoも検討してみましょう。

 奥野氏は「インデックスかアクティブか」についても書かれています。「アクティブファンドおおぶね」シリーズを手がけた奥野氏は、大前提としてはどちらであれ、中身を理解してから買いましょうということです。結局、どちらの投資信託にも含まれているのは「企業の株式」であり、企業群が利益を増やすことができるかどうかが大切です。

 TOPIX日経225に連動する日本のインデックスファンドについては、日本の上場企業はよほどのことがない限り上場廃止にはならず、新陳代謝が全く進まないとし、中身が悪かったらどれだけコストが安かったとしても、そこに投資をしてはダメだと言われています。

 S&P500については、ある意味、指数そのものがアクティブ運用であるとし、かなりダイナミックな銘柄入れ替えを行うことから、世界最強最大のアクティブファンドマネジャーであると言います。

 世間では、「アクティブ運用はインデックス運用に勝てない」と言われています。その理由としてはアクティブ運用はインデックス運用に比べて、コストが高くなっているからです。

 奥野氏は多くのアクティブファンドは、インデックスから大きく外さない形になっていると言います。運用成績がマイナスになった時も、少なくてもインデックスのマイナス幅と同じ程度に納めておきたいからです。それではコストを吸収できるだけの運用成績を挙げることができず、結果的にコストの分だけインデックスに割負けするという結果を招きます。

 奥野氏は、アクティブファンドを選ぶ際のポイントとして、まず運用会社のホームページで、運用者、運用哲学、組入銘柄を吟味、理解することが大切だと述べています。もし中身がイメージできないのであれば、そのファンドの購入は控えた方が賢明であるとしています。

 そして納得いくファンドを見つけた後に、そのファンドの手数料を見ます。運用に対する納得感に対して手数料が安いと感じるのであれば、その投資信託を買うことが正しい選択となるでしょう。

 最後に奥野氏は、投資を始めれば、世界の見方が変わり、得た知見は、ビジネスパーソンとして何段階も上の世界へ導いてくれると言います。投資を通じて資本主義を学び、自分のポジションを少しでも資本家にシフトしていくことが、貧しくなる日本で生きるためには必要です。

 

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